| ホントに0度 |
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新宿についたときには0時を過ぎていた。いつもなら酔っ払いで溢れる駅構内にも人はまばらだ。たしかに悪条件下の繁華街なんて観察する人はいないよな。あの強盗、着眼は正しい。地下通路を抜けて、東口のアルタ前に立ってみる。電光掲示板に示された今の気温……『0度』。街はオホーツクくらい凍てついていて、ホントに人影がナイ。帰省で街が静まり返る、盆暮れより人がいないんである。
(証明写真。スゲーでしょ!) |
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| 里子! 今行くよ!! |
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びゅーん。
風が吹きぬけた。店じまいしたシャッターの音がカタカタ震えた。遠くで小さくサイレンが鳴っている。僕は寂しさ無限大になった。太平洋ひとりぼっちだった。ウサギはね、寂しいと死んじゃうんだよ……。子供のころ聞いた悲しい話が思い出された。ドナドナドーナドナ〜♪。パトラッシュ、僕はもうダメだよ……。気持ちがどんどんダークサイドに引き込まれていく。い、いかん! このままじゃ木枯らしの天使に光の中に連れていかれる。
そだ!こんなときこそ歌舞伎町だろ。いつでもムセ返るピンクのスピリッツ。イカレた男道。忙しなく動くゴキブリも真っ黒な街。あそこなら天使も入ってこれまいて! モモやチチのはったつやつやの娘さんが凍える身体を持て余してるかもしれんじゃん……。
「ああ、にしヤンさん、私、サムい!」 |
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「大丈夫だよ里子(誰?)、ホラ、僕のコートのポケットに手を入れてごらん」 急に顔が二枚目になった。僕が里子の肩に手を回す……。「あなたって優しいのね」。下斜め45の角度から潤んだ瞳で僕を見つめる里子。ますます二枚目になる僕……。はっはっは、勝ったあ、勝ったあーっ。妄想を膨らませて、スキップを踏みながらやってきた歌舞伎町センター街。ヤケに通りの配色が黒いけど、それなりに人がいるじゃん。よし、僕もすぐソコへ。待ってろよ、里子ーっ。いま俺ナシでいられない身体にしてやるけんのーっ。信号が替わると同時に、センター街に体育会系のヘッドスライディング。同時に真っ黒な群れが僕のほうに一斉に寄ってきた。
「おにいさん、おにいさん、キャバリングしない(どうやらキャバクラで遊ぶことらしい)? スンゴいイイコいるよー」
「カラオケいかあっすか! いまなら飲み放題で1時間380円。ぽっきり!」
繁華街を埋めていた人口は、遊びにきた客やモモの張ったギャルではなく、お客の争奪戦をやっている呼び込みのニイサンたちだった。
かなりショッパイ夜らしく、日ごろはギラギラしてそうなニイサンが、小象のような哀しい目ですがりついてくる。
「今夜はホント人がいなくてさあ。お願いだから遊んでってくださいよ……。女の子2人付けて1時間2,000円でいいからさ〜」
「まじでぇ〜。行く行く〜。……ちょいまち。」
ところが、コチトラは残金1,790円。キミらの期待には応えられんわい。はっはっは、ちらばれ不幸。いや、俺が不幸……。人影のまばらな繁華街は、勧誘の集中砲火で、マジで歩きづらい。中には、超おいしそうな金額のお店もあるが、あまりにシツコク付きまとわれると、プチビンボーな気持ちになる。もちろん里子は見当たらないし、おまけにけつが割れるほど寒い。ああ、いっそこの1,790円で幸せになる壺でも買おうかしらん……。
このまま寒風の中にいると鰹節になりそうなので、深夜営業のバッティングセンターに向かう。仕事でストレスのあるヤツ、ナンパに失敗したヤツなんぞが夜な夜な情熱を振り回す場所。ああ、そこは人生のドン詰まり。一回300円で清原気分が味わえるんだもの、給料日前でもいるだろ、翼の折れたエンジェルたちが! |
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| おじさんと、愛、めばえる |
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たどりついた、30年の歴史を持つそのバッティングセンターには……里子どころか、ひとっこひとり、いなかった。うっかり話しかけると手かざしで腰痛とか直されてしまいそうな店番のオジサンが、考える人のポーズで座っているだけだった。通路に並べてあるコンピュータゲームのモニターが作り出すイルミネーションが、よけい重い空気を作っている。
……ひとりくらい客、いるんじゃねえのか? トイレの中、バッターボックスの隅、ホームベースの裏と探し回る。挙動も不振な僕を優しいまなざしで放置プレイのオジサン。この広いバッティングセンターの中で、どこをどう探しても、僕はオジサンとのふたりきりだった。イヤでも愛が芽生えそうなシチュエーションである。近づいてきたオジサンが言う。「さそりの毒は後で効くのよ……」
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| 300円投入! でも、当たらん…… |
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い、いやあああぁぁぁぁぁっ! はあはあ。いかん、人エベレストジャーマンくらい危険な想像してしまった。こんな時こそ胸のモヤモヤを吹き飛ばす魂のバッティングだろ。ランディ・ジョンソンなみの速球に設定したボックスはココか。それでは虎のコの300円投入。
ずばーん! ……速すぎて、見えない。はっはっはっ。草野球ではエースの僕がランディジョンソンはちょっと欲張り過ぎたかな。そんではこっちの一番スローなヤツで……。ずぼーん! うおーっ 当たんねーっ! 星くん! どがいなちゅうですか、星くーん! しかしアレですな……。一人きりのバッティングセンターで一人ボケ突っ込みは哀しいですな……。僕の背中が悲しみのインスタルメンタルを奏でている。誰にも見られないならいっそ黄色いツナギのブルースリージャージでくればよかったなあ。 |
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| 100円で股間直撃! するわきゃない…… |
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