俺はにしヤン、満で25歳、数えで53歳。職業、体当たり編集者。人が避けて通るべき方向にあえて挑み、危険もかえりみない。厳しき男道に生きている。
今日もハードなワークをこなした俺は、オフィスのフェイバリットなデスクに座ってディナーのチクワを噛っている。あたりはすっかり秋である。窓の外では太陽が急激に落ち込み、冷たいアスファルトが無造作に横たわっている。俺は心に忍び込む寂しさをやり過ごして、2本目のチクワに手を伸ばした。チョコレート・バーを噛るように、バリッ!とはいかない。マフッという音でチクワが切れた。だが、今日の俺はカッコイイ。斜め45度から飛んでくる熱視線。ふっ。ラテンな女の恋は化学反応だ。女性編集者の誰かがアンニュイな俺にスパークしているにちがいない。
「ほら、にしヤン。粥ができたぞ」
今日もハードボイルドな俺に斜め45度から粥を差し出すとは、どがいなっちゅうですか、御大! もっとこう、気が利いたコメントは言えんもんですかのう!
「バカでもいい。たくましく育ってほしい」
ふっ。俺はにしヤン、数えで53歳。こんなジジムサイ編集部にいると年齢がどんどん上がってしまうので、本日は飲みに行く。この一年、飲み屋街を歩き回ったその実力を皆さんにご披露するために。 |
| いざ、ぎろっぽん! |
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編集部の外に出るとすっかり夜は始まっていた。これからネタ探しと飲みをかねて、行き付けの六本木のスナックまでいくとしよう。ヘイ、タクシー! 親指を上げて合図したが、見えなかったらしい。行き過ぎた。ヘイ、タクシー! くるっと回ってゲッツ!をやってみたが、ソレとわからなかったらしい。行き過ぎた。今日は3連休前の金曜。いくらハードボイルドでもこんなことやってる場合じゃなかった。俺は手を大きく上げて振り回し、鈴をならし、タンバリンを叩いた。しまいには別れを惜しむ豪華客船の客みたく帽子を振り、七色のテープを投げて、やっとタクシーが止まった。まったく、困ったモンだ。アントニオ・バンディラスと吉幾三をたしっぱなしにしたような、ウカれた夜にぴったりの顔をした運チャンに低めのトーンで伝える。ギロッポン、プリーズ!
「がってん! 3連休だしねえ、お客さん。いいねえ、六本木で今夜も御乱心!?」
ノリのいい運チャンだ。タクシーは重く墨を含んだ夜を軽やかに滑り、六本木交差点のアマンドに突っ込みそうな勢いで停車した。 |
| −−−小計、威勢のいい運チャンへの支払い タクシー代、1,460円。 |
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