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にしヤンがいく!夜の突撃体験談
あの新宿ゴールデン街の素敵な夜
擦り寄ってきた御大はショートホープに火を付けて、新宿鮫の目つきで言うのです。「俺がロンリーチャップリンだったあの頃」 新宿ゴールデン街の取材に出掛ける私・にしヤンに、どうやらジジイが武勇伝を語りたいらしい。
「新宿ゴールデン街は70年代には300件近くも店がひしめいてな、文化人はみんな足を運んだモンだよ、うん。当時ナウでヤングだった俺も安酒を飲みながら議論に乱入してな、聞き分けのナイおっさんの奥歯ガタガタいわせたモンだよ、うは、うははは」
 威勢のいいことをいいタレるのです。御大、新宿ゴールデン街ってそんな危なかったんですか? 「まあ鎖骨折れる程度かな。一日一本。ちょっとチクっとするだけ」 ロンリーなウルフとチャップリンと間違えるオヤジにボケがきているのは確実ですが、そうまで言われるとなんとなく怖い……。
「ナンなら俺が案内してやらんこともないぞ。こちとら50代魔性の男。なにがあっても、オッケー、オッケー牧場」 オヤジギャグが裏目裏目にでてウルサイので即ハブ。ひとりで行ってきます! 「おーい。ひとりで行くと、ブドウの粒ツブみたいなパンチパーマのにいさんと遭遇するぞー!」
……経費で飲みに行きたいだけだろ!
ゴールデン街入り口花園神社脇にある新宿ゴールデン街の入り口。いくつもの細い路地をはさんで古い木造の建物がギッチリ並んでる。ものすごいレトロ、なにもかも昭和です。建物のオーラからして、普通のスナックなら井崎シュウゴローのようなオヤジが詰まっている。しかし、ここは魔境。御大の言うように、コワーイお兄さんが出てこないとも限らない……。
にしヤン一軒目に意を決して、ニューウェーブ系とおぼしき店に突撃。星マークがペイントされた木の扉をちょびっと押して中をうかがうと、おや? そこは小さいけれど小綺麗な空間だった。「いらっしゃい」 投げかけられたのは透き通った女の声、それは天国の調べ。ありえない! もしかして僕、パンチな人に光より速くヒットされて、シックスセンスのブルース・ウイリスみたくもう死んじゃったんじゃあ……。
24のママさんお客さん初めてね。好きなとこ座って」 カウンターの中にいるのはブドウの粒ツブではなくて、ストレートロングの女性。フレンドリーな上に水気の多そうな女性オーナーがいるのです。う−む。例えココがあの世であっても、ジャーナリストとして一番大事なことを取材せねばなりません。あのー、お年はいくつですか?「私? 24歳よ」 “にじゅうよ”まで聞いたときに鼻がバフっとなりました。
ここは天国落ち着いてきたので、たずねてみる。ココは天国ですか? 「もちろん天国よ」 ご法度とかナイんですか? 「そうねえ、店に火を付けてはいけない。床を踏み抜いてはいけない。ヘロヘロになって見苦しいイモを見せてはいけない。それくらいかなあ」 なんて敷居の低い3カ条。人間がひとまわり大きくなってしまいそうです。
だれだこのオヤジはさっきから熱視線を送ってくる男。お話したいらしく寄ってきた。「コレはオフレコでお願いしたいんだけどさあ」 なんですか。3年で家が立つ洗剤の話なら間に合ってます。「月夜の晩に西の窓に向かってオイルを塗って叩くと、超メジャー級になるって知ってた?」 なんだキミは。「あとな、酒が足りんときはヘアトニック飲むといいらしいぞ、うっしっし」 小ブリな大橋キョセン? ここがあの世じゃないことはハッキリしました。
キョセン喋りまくり初対面でしゃべりまくるキョセンは素敵なイカレっぷりですが、これが新宿ゴールデン街というモノらしい。お店にいる客同士は仲良くなってイイ。「ウチのお客さんは男女比6対4くらいだけど、黙って飲んでいる人の方が少ないなあ。狭い店だから、みんな友達でいいじゃない。じゃ、3人で一緒に乾杯しよ。アナタのお酒はアナタのお金、私のお酒はアナタのお金ってことで」 ソフトに狩られた気もしますが、ま、いっか。
かんぱーい 「カンパーイ!」 オーナーは僕から強奪したビールとロックのBGMでノリノリになり、キョセンは新宿ゴールデン街2度目の初心者のくせに、がっちょり飲んで脳みそゲル状態。実に楽しそう。店と客というより、早くもお友達。よーし、僕もすぐソコへ! 新宿ゴールデン街は酒が安い、は本当。ビールを1杯2杯、おおっと、そこにあるのはゴードンじゃないか、ビールはちょっとかたしてジンを4杯5杯、ええい止めるな、ウイスキー6杯7杯!
幸せの青い鳥なんでしょうか、この浮遊感は。頭の中に良い感じの光が広がり、気がつくと目の前をチルチルとミチルの青い鳥が飛んでいました。幸せになりたーい。気がつくとキョセンも蟻がたかりそうな体形をめいっぱい伸ばして鳥を掴もうとしておりました。「青い鳥はね、この店にしかいないの。ね、天国でしょう? 毎晩来るのよ」 オーナーが腹の黒いことを吹き込み、極楽の扉がパックリと口をあける。ああ、知らなきゃよかった大人の世界。
キョセンとともにキョセンの横顔がセクシャルバイオレットナンバーワンに見えはじめるころ、オーナーは僕に言いました。「新宿ゴールデン街は友達を増やすところなのよ。お客さん同士は店外デートオッケー。あとはあなたの腕しだい」。どうやらココはハシゴするにも向いてるってことが言いたいらしい。僕とキョセンは30人31脚の小学生のようにぴったり寄り添って、おんもに出た。

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