
故・石原裕次郎さんをはじめとして、安部先生の数々のご交際のあったご友人を「俺が痺れた男たち―日本快男児列伝」で紹介されてますよね。
「石原裕次郎さんにはホントによくしてもらったよ、うん、いい思い出ばかりだよ」
石原裕次郎さんとは当時よくお酒をご一緒されたりとかされたんですか?
「いやいや、オレなんてチンピラなわけだからさ、裕次郎さんは大スターだし人の目もあるから。もちろん、親しくなかったってわけじゃないけど、クラブとかでばったりと会っても挨拶するぐらいなもんでさ。だって、オレみたいなヤクザ者なんかといたらイメージが悪いだろ」
石原裕次郎さんでもそんなことを気になさるんですか?
「いやいや、裕次郎さんはそんな小さなこと全然気にしないよ。まわりがね、取り巻きとかさ。でもさ、あのサンフランシスコの夜は忘れもしないよ(しみじみと)」
「たまたま仕事でサンフランシスコに行ったときにね、そこで裕次郎さんにばったり会ってさ。で、『ここなら人目もないからさ、オレと朝までやらないか』って言っていただいてね、裕次郎さんと朝まで飲み明かしたんだよ」
「そうだね、いろんな話をしたよ。オレみたいなどうしようもないヤクザ者にもさ、裕次郎さんはちゃんと真正面で受け入れてくれてさ、気配りも凄くて、ホントに感謝してるよ」
その当時、安部先生はヤクザと航空会社の社員という今では到底考えられない兼業をされてますよね。
「そうそう、客室乗務員をやってたんだよ。当時はもうホントに若いもんを食わせるほど裕福な組じゃなかったからさ、働かなきゃいけないってことでな(苦笑)」
「普段はさ、胸に組の代紋を付けてるわけだろ。そして出勤する時は会社の社員章を付けかえるわけだよ。付け間違ったらえらいことになってたな(笑)」

そのあまりのトンデモストーリーが故・三島由紀夫先生の手によって小説になり、故・田宮二郎主演で映画化もされましたね。
「『複雑な彼』ってやつな、つまんねー代物だったよ。この話の主人公の名前知ってる?」
「それがオレの作家デビューする際のペンネームにもなったわけだからな」
それまた凄い話ですね。三島由紀夫さんとはもちろん?
「彼とはね、決して仲が良かったわけじゃないんだよ」
「三島さんとはさ、オレがゲイバーで用心棒をしてるときに初めて会ったんだけど、もの凄く痩せててさ、青びょうたんみたいな感じでね。ゲイの連中も三島さんのことを青びょうたんって呼んで茶化してたよ」
「そうなんだよ。でね、三島さんが用心棒のオレに『あなたの流派はなんなのですか?』ってしつこく聞いてくるんだよ。で、『ボクシングです』って答えたら、自分もボクシングをやってみたいから紹介してくれって言うんだよ」
「知り合いのジムを紹介してさ、そこで練習を始められたんだけど、程なくして『我慢できない』ってオレに言ってくるんだよ。理由を聞いてみたら『みんなわざと私の顔を殴らないのが納得できない』って。でね、『それはボクがそうしろって言ったんです』って。『頭を使うお仕事をされてる方だから顔にパンチは入れるな』って」
「いやぁしなかったね(苦笑) で、『三島さん、ボクシングっていうのはヨダレが止まらなくなったり、目の焦点が合わなくなったりと、打ち所によってはそうなっちゃうんですよ、頭を使う人がそうなったらどうするんですか』って言ったの。三島さんはそれを聞いて激高されてね。それから彼はなぜかボディービルを始めるんだけども、まぁそんなことがあってからは疎遠になってね」
「そうそう。あの時は色々話し合いとかもあったんで会ったりもしたけど、酒を酌み交わすとかはなかったな。あの人はね、なんでも格好から入り込む人だったから、そこをオレみたいなチンピラに否定されたわけだし、許せなかったんじゃないかな。でもさ、それからだいぶ経って、あの日の2日前に電話で話したんだよな」
「そうだよ。オレが飲み屋で飲んでたらね、オレ宛に店に電話がかかってきてさ、電話口に出たら相手は三島さんでね『私の酒を全部飲んでいいですよ』って唐突に言うんだよ。『旅にでも出るんですか?』って聞いたら『まぁ、そんなもんだ』って。でもね、その酒ってのがブランデーとかウイスキーとかばかりでさ、すぐには悪くならないものばかりなんだよね、おかしいなって思ってたらさ・・・・・・」
「そうなんだよ。まぁ、旅みたいなもんだって言ったらそうなんだけど、悲しいよね」
当時、あんな形の最後を遂げられるとお思いでしたか?
「いや、思わなかったね、三島さんがあそこまでやるって、当時は誰も思ってなかったと思うよ。
だからね、三島さんと親交があったってのはちょっと違うんだよ。毛色が違ったというか、平行線だったね。いつもオレに『ヤクザなんて辞めてこっち側に来い』って言ってた。当時、三島さんの周りには構成員みたいなのが100人くらいいたんだけど、理論武装してるだけで本当の意味での武装はしてなかった。オレは思ったよ『それで何が出来るの?』ってさ。