
●昔から、裏を返さないのは客の恥ってことをいいますが……
「客は遊び方知らないし、店は遊ばせ方知らない……。これ、僕が感じる最近の夜の街の傾向。」
「そりゃ客はね、金払いいいに越したことはないと思うんです。でもね、金払ってるからって、野暮やっちゃいけない。グチりながらヤケ酒みたいに酒飲んだり、酔っぱらって無闇に女の子に迫ったり……。中には横柄な奴だっていますよね。お大臣みたいなのが。みんなが楽しんでいる場所だってのに、大声で偉そうに『おい、こら、ビールもってこい!』ですから。」
「そんな奴に出くわしたとき、僕わざと追いかけでいうんですよ。『ママ、すみません。手空いたときにでも、ビールもってきてもらえますか。銘柄、なんでもいいから。おいしそうなところ、みつくろってきてくださいな』って。そしたらね、店の中がザワザワってなって、『やっぱりね、修行しているヒトはちがうねえ』って感じになる(笑)。横柄な奴も、そうなるとやっと自分の野暮に気づくってわけ。」
「サービスのデフレなんですかねえ。店もね、何にも知らない若いねえちゃんおいて、安く飲ませれば客が入ると思っている節がある。そうじゃないでしょ。昔はね、気づかいができて経済や政治の話しだってできるホステスさん、いっぱいいたんですよ。ところが、いまじゃ隣についた途端、『聞いて聞いて、ウチの犬がね』ですから。バカ野郎、わざわざお前の犬の話し聞きにきてんじゃねえやってことですよ。」
「けっきょく店が野暮だと野暮な客しか集まりませんね。客は一夜限りに騒いで、金を落としていくだけ。それ以外はなんにも残さない。だから、ますます野暮な店になっていく。通いたいと思わせる店をつくらなきゃ。客もね、一回限りで騒ぐんじゃなくて、通って、自らお店の雰囲気をつくってあげるよう努力しなきゃ。じゃないとね、粋な遊び場、なくなっちゃいますよ。」
「吉原の落語の枕にね、『裏を返さないのは客の恥、馴染みを付けさせないのは花魁(おいらん)の腕が悪い』ってのがあるじゃないですか。いまの夜の街には、もっとも必要な言葉かも知れないないですねえ。」
「んっ? あなた、この言葉も知らないの? やっぱり……。んじゃ説明しますけどね、裏を返すっていうのは、もう一回行くってこと。通わない客は、吉原での粋な遊び方を知らない野暮な奴だって意味ですよ。でね、客をもう一回行こうって気にさせない、つまり馴染みを付けさせないのは花魁のサービスが悪いってことを指している。わかった? もう、やれやれだ(笑)。」 |