
●年に700軒回って、酒場選びの眼力を磨いた。
わたし、8年ほど前に『東京酒場漂流記』っていう本をだしたんですよ。東京の下町を中心として、行きつけの赤提灯とか気になる居酒屋とかを数十件ほど紹介してるんですけど、この本をまとめるための下取材がものすごく大変だった。1年に700軒も酒場を飲み回ったんですよ。なんと毎日2軒の勘定!
これ、仕事ではあったけど、仕事だと思ってやってたら、とても辛くて回れません。やっぱり、酒が好きで飲み屋が好きっていうのがあるからなんとかやれた。ま、この体験のおかげで、店構え見るだけで、そこがいい酒場かどうかわかるようにはなりましたけどね。
いい酒場を見つけるポイントですか? うーん、そうだなあ、あくまで個人的な感覚だから、うまく表現できないんだけど……まあ、あえていえば、ちょっとすたれた感じがあって、昔っから頑固に変わらずにやってそうな雰囲気が漂っているってとこかなあ。ぼくはもう、そんなの見ると、ときめいちゃう。黙っちゃいられないですね(笑)。
ただ、たまーにね、この酒場選びで失敗することもありますよ。気持ちを高揚させてのれんをくぐるわけなんですが、ひでぇ店だとわかった瞬間、これは落ち込みます。自分の眼力を信じているから、そのぶんショックが大きい。うん、だから、わたしのいい酒場ヒット率は、8割から9割ってとこなのかな〜。
●為にならない会話こそ、酒の最高のつまみになる
いい酒場って、料理や酒が安くてうまいっていう条件もあるけど、なにより客同士の会話が面白い。会話が、その店の最高のつまみになってるわけなんですよ。
で、その会話もね、下町あたりの肉体労働関係のオヤジたちが集まる店で聞くのが一番よいですね(笑)。とにかく人生においてまったく為にならない話をしてますから、みんな。たとえば皿の上のジャコを指さして、「おい、知ってるか、これ鰯なんだぞ」「おお、そうなのかい、鰯ってこんなちっちゃかったのかい」「いや、だからちっちゃな鰯がジャコになるんだな」「へえ、大きいのは、じゃあジャコになれないってことか」「そうそう」「だったら、大きくなるのも考えものだな」「うん、そうだな」とかやってる(笑)。
酒場のテレビで無差別テロのニュースが流れるとするでしょう。みんなテレビを食い入るように観ながら、喧々囂々と世界平和の問題とか議論しだしますよ、そりゃ。だけどね、じつは中身ないです、その議論(笑)。テレビのニュースを肴にして勝手に思いついたことをしゃべってるだけなんです。トイレでもいって、5分その場を離れてごらんなさいよ、戻ってきたときには、まったくちがう話題になってますから。さっきしゃべったことなんかだーれも覚えてませんから(笑)。
同じ会話でも、酒場を間違うと、もういけないですよ。面白くないものを聞かされて、酒もまずくなるばかりです。やっぱりサラリーマンのみなさんの会話は、だいたい面白くないかなあ。会社や上司の悪口ばっかりいってるでしょう。ま、会話で発散している点はさっきの飲兵衛の連中と変わらないと思うけど、聞いててぜんぜん楽しくない。よせやい、って思いますよ。それと芸能界関係の方々の会話も面白くないですね。男はだいたい女の話かゴルフの話ばっかりしてる。つまりその、なんなんだろうなあ、世界が狭いっていうか、人生観が乏しいというか……。こういうヒトたちが集まる酒場は、誘われればついていくけど、自分ですすんで行くことはないですねえ。
あ、芸能界っていっても、フォークシンガーの連中の会話は面白いですよ。みんないかれちゃってますからね(笑)。……ん、いや、まてよ、話そのものはあんまり面白くないかな。存在自体に艶はあるんだけど、先細りの世界に生きてるし、みんな根が真面目だから、くだらない会話は下手なほうかもしれないなあ(苦笑)。
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