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HOME > マガジントップ > インタビュートップ > なぎら健壱 「いい酒場ヒット率、9割くらいかな〜。」
夜遊びの達人に聞く:なぎら健壱
仮初めを誠と思えば破滅する
●仮初めの恋をさせてくれるお店。

女性が接待してくれるお店ですか? うーん、昔はちょこちょこ行ったこともあるけど、いまは行かないなあ。

あのねぇ、なんつうのかな、そういうお店って、昔は仮初めの恋みたいなものをさせてくれる感じがあったと思うんですね。だけど、いまは、どのお店いっても、そんなのないような気がする。なんか仕事で義務的にそばにいて会話してるだけという感じ。しかも新聞すら読んでないから、会話そのものも面白くない。そんなのに高いお金払うんだったら、赤提灯でつまみの一品、酒の一杯につぎこんで、オヤジたちのくだらない話を聞いてるほうが、どれほどいいか。

わたし、最近「仮初めを 誠と思えば 破滅する」っていう言葉を思いついたんですよ。いい言葉でしょ? われながら気に入ってて、歌にしようかと考えてるほどなんだけど、ほら、男ってみんな馬鹿だから、破滅するとわかってても仮初めの恋に走っちゃう部分ってあるじゃないですか。そういう男の本質が、端的に表現できてていいなあと思ってるんですね。でね、そういう男心を、やっぱり酒場のプロの女性はくすぐるべきだと思うんですよ。街を歩いているお姉ちゃんのまんまじゃ、お金はとれませんて。

ま、何事も、プロフェッショナルじゃなきゃダメってことでしょうね。さっきのいい酒場の話で、集まる客の会話が面白いってことが大事っていいましたけど、やっぱり料理とかも、すごい探求心と向上心をもってつくってますからね。みんなうまくて安い。破滅する楽しみはないけど、いそいそかよっちゃいますよ(笑)。

じつは昔、わたしもお店やってたんですよ。『キャノンボール』っていうウエスタン調のバー。いい酒場を語ってるわりには、その店、潰しちゃったんですけどね(笑)。だって、そこには、金もないし、どこに飲みに行けばいいのかわからない変な奴らばっかりが集まってましたから。面白いのは面白いんだけど、みんな大福帳、つまりツケで酒飲んでましたしね。

もう一度店をつくる気力はあるかって? うーーーーーん、微妙だなあ。でも、もしそういうチャンスがあるとしたら、つくってみたいお店のイメージはある……。その、集まるお客がね、みんな歳も職業も関係なく、優劣もなく楽しく酒が飲めるお店。ある客は銀行の頭取かもしれない、ある客は犯罪やって逃げてる奴かもしれない、そういうでこぼこの人間同士が、お互いの関係を意識せずに、酒を間に置いて対等にくだらないこと話しながら飲めるお店。そういうのが理想かな。なんか、『キャノンボール』と同じ命運をたどりそうだけどさ(笑)。


●旨い酒は、まずいものも飲みつつ探すものでしょ!

飲む酒はオールマイティです。とりあえずビールで喉を潤して、毒みたいな酒から、旨い酒まで、なんでもいちゃいます。ただ、日本酒だけにはうるさいですよ。15年ほど前に、吟醸ブームってのがあったじゃないですか。あれで、日本酒がすごいことになってるなって気づいて、はまったんですね。

これだっていう銘柄は、いっぱいありますよぉ。だけど、その銘柄をいったところで、なんの役にも立たないと思うから、いわない(笑)。だってね、みんな勘違いしてるみたいなんだけど、日本酒って、同じ銘柄が毎年旨いとは限らないんですよ。生き物ですから。たとえば去年の鑑評会で1位とって、すんげぇーっていう酒が、今年、醸造に失敗することだって往々にしてあるんですよ。ちなみに、鑑評会なんかに出す酒って、造っている中で最高のやつを出すわけで、一般に流通してるやつは、それよりずうっと下ってことも知っておいたほうがいいかな。

まずい日本酒については、銘柄、いくらでもいえますよ(笑)。たとえば『○の○○』。昔はうまかったらしいけど、今のはひどい。わたしのよく知ってる旨い日本酒をだす店の主人なんか、仕入れてすぐに捨てちゃたくらいですからね、ドボドボと。

ただ、酒はまずいものを飲むから、旨いもんがわかるって側面がある。わたしも、昔、日本酒のオレンジジュース割りなんてものを飲んだりしてたから、今、吟醸酒の旨さにはまったわけで……。そういう意味では、『○の○○』をオススメしてもいいかな(笑)。

ぼくは下町の生まれだから、下町の感性がよくわかるんですよ。下町の酒場って、うるさく飲み方を注意したり、口汚く怒ったようにしゃべる婆さんなんかがいたりするんですけど、そういうの全然気にならない。逆にそこの酒場のなくてはならない風景の一つのように感じる。

だけど、ボクの本を読んだヒトが、そこに紹介されている下町のお店に無防備にでかけていったら、きっと頭にくるだろうなあと思う(笑)。もしそのヒトが山の手出身だとすると、アメリカの西海岸から南部の街にでかけたようなギャップを感じるんじゃないかな、と。

擁護するわけじゃないけど、下町って悪口が挨拶のかわりみたいなもの。それほど腹の中は腐ってはいないんですよ、あれで。どなたも、そこらへんをわかって飲みに行くとよろしいのかなと…。ま、酒も酒場も嗜好品ですから、合わなければよしたほうがいいです。嫌いになっていいと思います。そういうのはね、しょうがないことです。だれもとやかくいいません。気楽に、自分の好きな酒場を見つけにでかけましょうよ。

そういう男心を、やっぱり酒場のプロの女性はくすぐるべきだと思うんですよ。
なぎら健壱(なぎら・けんいち)●フォークシンガー
なぎら健壱プロフィール 1952年4月16日、東京の下町・木挽町に生まれる(現在は東銀座とハイカラになってしまっているが、もともとは下町だった)。61年に葛飾に引っ越し、幼心にさらなる下町気質を刻む。高校生のとき、関西系のメッセージ色の強いフォークソングに感化され、フォークソングを歌いはじめる。70年の中津川フォークジャンボリーに飛び入りで『怪盗ゴールデンバットの唄』を歌い、それがきっかけでプロデビューしてしまう。73年には、『悲惨な戦い』が大ヒット。放送禁止シンガーの“名誉”も受ける。その後フォークブームが去って、仕事が激減するという目に遭遇し、先行きをはかなんだこともあったが、もちまえのエンターテナーとしての才能を周りが放っておかず、テレビや映画でのタレント業、役者業としての仕事が増えてゆく(第2回日本映画大賞の助演男優賞まで受賞している!)。そして、文筆業にまで才能を発揮し、83年には飲み助のバイブルとまでいわれる名著『東京酒場漂流記』を出版。以降、下町を舞台とした数々の著書を発表しつづけている。その間、フォークシンガーの活動を休止していたかというと、さにあらず、原点であるライブ活動を、定期的に行っている。マルチタレントとの見方もあるが、あくまで魂のフォークシンガーなのである。

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