
●生き方、飲み方の相性がぴったりだった故・松田優作
よく、どんなところで飲むか? そうだなあ、美味しいお酒は、いい雰囲気でといったところかな。まあ、雰囲気といってもいろいろあるわけで、あえていうと静かなお店。まわりの客が大人で、接客もうるさくなくて……。
ワインのときと同じで、僕は一回気に入ると、そこにずうーと通います。もともと自分でお店を開拓するタイプじゃないから、紹介されたお店がいい雰囲気だったら、そこを離れないんです(笑)。東京に2〜3軒、京都、大阪に3〜4軒ぐらいありますね。ええ、どこもマスターとかお店のヒトと顔馴染みになっています。だけど僕、飲んで話するの嫌いだから基本的に会話はしません。通っている店はね、そういう僕のスタイルを普通に受け入れてくれている。会話しないのもサービスの一つとして心得ているんですね。
女性がいるお店は、あまり行きませんね。そりゃ若いときは行ってましたよ。騒ぎもしました。でもねえ、いまは、ホステスさんに会話のプロが少ないせいか、客がしゃべらなきゃいけないお店が多くなったような気がする。僕、しゃべるの嫌いだから、どうしても足が遠のきますね。
えっ? 酒場でよく女の子を口説いた話を聞いた? ああ、それも若いときのことですよ。あの頃は僕、毎日ぐでんぐでんに酔っぱらっていたわけじゃないですか。するとね、どうしても女の子としたくなるわけですよ。で、隣にいる女は全部自分の女という感じの勢いもありましたから、誰でもいいから声をかけた。それは事実です。でも、別に一生懸命しゃべって口説くわけじゃない。顔見て、「したい」っていうだけ。もし「ヤダ」っていわれればそれまで。その女の子へのお誘いは、その一回でお仕舞いです。次は別の女性に「したい」っていいに行った(笑)。たった一言で響いてくれる女の子を探していましたね。
ま、かように、しゃべるの嫌いだからか、僕、友だちが少ないんですよ。飲みに行くのも独りが多い。
松田優作は、その少ない友だちのひとりでしたね。『嵐が丘』って映画をいっしょにやったときのこと、彼、初対面の僕に「お前のことが好きだ」っていきなり抱きついてきたんです。僕の演技が気に入って、大好きになったというんです。僕はなにがなんだかわかりませんでしたけど(笑)、以来、僕らは無二の親友同士になった。年中、下北沢あたりで二人で飲むようになりましたね。
僕も役者バカだけど、あいつもバカでね、いっしょに飲んでも芝居の話ばっかり。遊びの話とか趣味の話とか、日常生活の話なんてほとんどしない。僕は、彼と飲むときもあまり話さず、聞き役に徹していたんだけど、楽しかったですよ。3〜4年、そんな幸福な状況がつづきましたかね…。
彼との会話は、偶然街でバッタリあったときが最後でした。彼が治療に行く途中で、僕は京都での仕事の合間に一旦帰京しているときのことでした。立ち話で、ちょっとお互いの近況を報告しあった。別れ際に僕が「あと1カ月したら京都の仕事が終わる」ということを告げると、彼は「じゃあ、帰ってきたら、また飲もう」っていってくれた。そして僕が京都から帰ってきたその日、彼は亡くなったんです……。
●
ところで、僕ね、最近ドンペリ(ドンペリニョン)も好きなんですよ(笑)。あれ、単に有名だからじゃなくて、さっきいったワインとかと同じで、味がいいんです。
いまのお酒ライフの理想は、もっとドンペリを楽しめるシチュエーションをつくりたいな、ってこと。どういうシチューションかというとですね、ある一つの芝居が満足のうちに終わるとするじゃないですか、その次の朝にね、まだ体に残っている芝居の余韻に浸りながら、自宅でゆっくりドンペリを味わうっていう……そんな感じだな。
若い頃は、僕にとってお酒は芝居の緊張を解きほぐす道具にすぎなかった。でも、いまは気分がいいときに付き合う、かけがえのないパートナーであることはまちがいないですね(微笑)。 |